ホンコン

香港はいつも中継地として立ち寄るだけなので、ゆっくり出来たためしがない。
泊まるのはAirport Hilton。 空港直ぐ横で翌日の出発にはとても便利。
夜景見るなら何てったってアイドルじゃなくて、リージェンシーだろう。

中国のアモイで開催される展示会出展と商談のため、ある時、ボスと取引先の社長の3人でHK経由中国に入ることになった。
このホテルで一泊したのだが、夜10時頃突然停電。
直ぐに回復するだろうと待ってみたが、なかなか電気がつかない。
念のため窓から外、上下を見て火の手が無い事を確認した後、部屋の扉を開くと、廊下の電気はついている。 
・・・・と、その内、僕の部屋の前が突然賑わしくなった。 日本人のようだ。
            
扉を開けると7〜8人の日本人がワイワイもめている様子。 
 「どうしたんですか?」 「火事だ火事」
 「でも、火の手は無いようだし、外の様子も別におかしくないようですよ。」
 「いや、煙を見た人がいる。 煙で下へは行けないと言うとる。」
 「誰が見たんですか?」 ・・・・・・・沈黙
            
僕は直ぐさま部屋に戻り、電話でフロントを呼び出すと、ちゃんと通じる。
事情を尋ねると、電気系統の故障だが修復中なので少し待って欲しいと言う。
廊下に戻った僕はこの事をみんなに伝えたが、何人かの人が信じてくれない。
「じゃ貴方、僕と一緒に階段で下まで行きましょう。 問題無ければ内線入れるのであなたの部屋番号教えて下さい。」と言って、グループの中から僕と同じ位の男性を指名し、一番騒いでいる初老の男性の部屋番号を教えてもらう。
念のためタオルを水で濡らし、堅く絞ったあとこれを首に掛ける。

階下のボスの部屋に立ち寄ると、取引先の社長と一杯やっている最中だったが成り行きを話すと、「じゃ、俺達も付き合うか。」と部屋から出てきた。
普通ならエレベーターでアッという間に着く筈だが、長い階段をエッチラオッチラ降りて行くと、何事もなくフロントへ到着。 しかも、ついた途端に電気が普及。
一緒に来て貰った人に内線を入れてもらい、僕らは下のカフェでコーヒー飲んでから今度はエレベーターで戻った。

言葉が通じない事の不便さはバベルの塔の伝説を持ち出す迄も無く、自明の理。
しかし、人の感情、心の動きを伝えるのは何も言葉(言語)だけでは無い筈だ。
たとえ電話で相手の顔が見えなくとも、言葉が解らなくとも、火事なら相手の話し方や、周りから聞こえるバックノイズからでも情報は得られる。
必要な事は、未確認情報を元にただうろたえるのでは無く、少ない情報源の中から、どのようにして確かな情報を拾い出すのかを冷静に考える事だ。
特にこのような状況下では、言葉が出来る出来ないなどは全く関係の無い事。
人が言葉を持つ前、どのようにしてコミュニケーションをとっていたのか? そのことを考えて見れば、言葉は重要ではあっても、それが全てでは無いことが理解出来る・・・・と僕は思う。

観光地へ出掛けるより、このような何でもない下町を歩くのが好きだ。
何故か心が落ち着く。
HKでは昼間出掛ける機会がないので、早朝の散策となる。
朝なら観光客の姿も見られず、この街の素顔がほんの少し見られる。
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